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「わたしは悪くない。」

わたしの好きな画家、アントニオ・ロペスの作品の一つに、皮を剥いだ食用のうさぎの肉塊の絵がある。

https://www.google.co.jp/search?q=antonio+lopez+rabbit&client=safari&hl=ja-jp&prmd=ivmn&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwiygPnnhb7PAhVKlZQKHXpODvEQ_AUICCgB&biw=320&bih=460#imgrc=509yqJ8rh3OMvM%3A

その絵が好きだったわたしは、自分もあんな風に動物の死体を描くことができるだろうか?と試したくなり、
好奇心という名の欲を満たすため、食用の鶏を丸一匹買って描いてみることにした。

一人暮らしの小さな部屋の中でわたしと鶏の二人きり。

仕事の合間をぬって描き進め、二週間ほど経った頃だろうか。
虫が部屋に入らないように注意していた苦労も虚しく、いつの間にかハエが卵を産み付けていたのだろう。鶏の体から、蛆虫が大量に湧いてしまったのだ。

蛆虫に対するわたしの感情はどんなだったか。

気持ち悪い、怖い、いやだ、そんな感情の中に、
「わたしと鶏の美しい関係をぶち壊しやがって!」
という、腸の煮え返るような怒りがあった。

まだ描きたりない。もっともっと見ていたかったのに、部外者の侵入のせいで叶わなくなってしまった。

殺虫剤を浴びせかけてもなかなか死なない蛆虫を、
わたしは一匹一匹、文房具用のカッターで切り裂いて殺した。

「蛆虫は何も悪くない。ただ彼らが生まれ落ちた場所がわたしの部屋だったのがいけないんだ。だからわたしも悪くない。」

何もかも、東京の小さいこの部屋。大地から切り離された鬱屈した空間のせいなんだ。

この絵が不完全な状態で完成し、鶏ともども蛆虫をごみ捨て場に投げ捨てた数ヶ月後。


東北で地震が起きて、津波に人々が飲み込まれ、原発が爆発したくさんの人々の命と居場所が失われた。

津波に飲まれていく小さな人々をテレビでながめていると、殺したたくさんの蛆虫たちとその人たちの姿が重なって見えた。

そしてわたしは繰り返し、心の中でつぶやいた。

「全部、この窮屈な部屋が、日本という土地が、この地球が悪いんだ。

わたしは自分を守るために殺しただけなんだ。だから何も悪いことはしていない。

全部この空間が悪いんだ。わたしは悪くない。

わたしは悪くない。

わたしは悪くない...。」